更新日:2026年3月2日
地震大国である日本。東日本大震災や熊本地震など、日本全国さまざまな地域で甚大な被害をもたらす地震が発生しています。近い将来、南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模地震の発生が予測されており、災害時に備える必要性が高まっています。 地震に対する経済的な備えのひとつに、地震保険があります。地震保険は、地震によって建物や家財に損害があった場合に、それを補償する保険です。いつ発生するか分からない地震に対して備えたいという方に向けて、地震保険の概要や仕組み、保険料について解説します。
地震保険とは、地震や噴火、津波によって建物や家財が損壊・埋没または流失した場合の損害を補償する保険です。
地震保険制度は、1964年の新潟地震をきっかけに、「被災者の生活の安定に寄与すること」を目的に1966年に創設されました。
地震被害は発生頻度が予測困難かつ、一度に発生する損害が極めて巨額になる可能性があります。こうした性質から、地震保険は民間の保険会社だけでは損害額の引き受けが困難であると考えられ、政府が「再保険(保険会社が負う責任の一部をさらに保険にかける仕組み)」としてバックアップする体制で運営されています。
この体制により、1923年に発生し甚大な被害をもたらした関東大震災クラスの巨大地震が発生しても、確実に保険金が支払われる仕組みが整えられています(*1)。
地震保険は単独での加入はできず、火災保険に付帯する形での加入が基本です。
前述の通り、地震被害は一度に発生する損害が極端に大きくなる可能性があります。
単独の地震保険では保険料収入が不足するリスクが高いことから、多くの加入者によるリスク分散と保険料収入の安定化を図る観点で、火災保険契約に付帯させる方式が採用されています。
なお、政府が関与する社会公共性の高い保険であるため、保険会社の利潤は含まれておらず、どの会社で加入しても保険料や補償内容は同じとなっています。
また、すでに火災保険だけを契約している場合でも、契約期間の途中から地震保険を追加することも可能です。ただし、地震災害に関する警戒宣言が発出されている場合、宣言が解除されるまで当該地域では新たに地震保険契約が締結できないことがあります。
地震保険と火災保険では、補償対象および支払い基準が異なります。地震保険は、被災後の「生活再建」を補助するための公的な側面が強く、火災保険はカバーできない地震起因の損害を補償します。それぞれの補償範囲は以下の通りです。
通常の火災保険では、たとえ火災による損害であったとしても、その原因が地震・噴火・津波による場合、一切補償されません。建物や家財が火災によって焼失しても、その原因が地震であれば、地震保険でしかカバーできないのです。
また、保険金の支払を決める基準にも違いがあります。
火災保険と地震保険は同列で語られることが多く混同しやすいですが、それぞれ補償対象が違う点を理解しておきましょう。特に地震保険は「実損補償」ではない点を、加入検討の際にしっかり理解しておきましょう。
地震保険は、被害のあった建物や家財をすべて元どおりにするための保険ではありません。前述の通り、被災後の生活を再建するための資金を確保することを目的としています。そのため、保険金額には上限が定められており、損害区分に応じた保険金額が支払われる仕組みとなっています。なお、地震保険で支払われる保険金は使途が決められておらず、生活の再建に幅広く活用できます。補償内容と保険金額について見ていきましょう。
地震保険で補償される内容は、以下の通りです。
いずれも、「居住の用に供されているもの」に限定されます。そのため、全ての所有物が対象ではありません。以下に記載のものは補償対象外となります。
地震保険は、付帯される火災保険の保険金額の30%~50%の範囲内で保険金額を決めることができます。ただし、建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度となっています。
この割合や上限は、地震保険法に基づいて設定されています。地震保険は、巨大災害時でも制度を維持していくため、全額補償ではなく保険金額の範囲内での補償になることを理解しておきましょう。
保険の対象である居住用建物または家財が全損・大半損・小半損または一部損となったときに、以下の損害区分に基づき、保険金が支払われます。2017年1月1日施行の地震保険に関する法律施行令の改正により、「半損」が「大半損」および「小半損」に分割され、損害区分は4分割になりました。
■表1:地震保険における建物・家財の損害区分
2016年以前保険始期 | 2017年以降保険始期 | ||
|---|---|---|---|
全損 | 地震保険の保険金額の100% (時価額が限度) | 全損 | 地震保険の保険金額の100% (時価額が限度) |
半損 | 地震保険の保険金額の50% (時価額の50%が限度) | 大半損 | 地震保険の保険金額の60% (時価額の60%が限度) |
小半損 | 地震保険の保険金額の30% (時価額の30%が限度) | ||
一部損 | 地震保険の保険金額の5% (時価額の5%が限度) | 一部損 | 地震保険の保険金額の5% (時価額の5%が限度) |
※財務省ホームページ「地震保険制度の概要」を基に筆者が作成
なお、損害区分の基準は以下の通りです。
■表2:地震保険における損害区分の基準
建物 | 2016年以前保険始期 | 2017年以降保険始期 | 基準 |
|---|---|---|---|
全損 | 全損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の50%以上となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上となった場合 | |
半損 | 大半損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の40%以上50%未満となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の50%以上70%未満となった場合 | |
小半損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の20%以上40%未満となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の20%以上50%未満となった場合 | ||
一部損 | 一部損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の3%以上20%未満となった場合、または建物が床上浸水もしくは地盤面より45cmをこえる浸水を受け、建物の損害が全損・大半損・小半損・一部損に至らない場合 |
家財 | 2016年以前保険始期 | 2017年以降保険始期 | 基準 |
|---|---|---|---|
全損 | 全損 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の80%以上となった場合 | |
半損 | 大半損 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の60%以上80%未満となった場合 | |
小半損 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の30%以上60%未満となった場合 | ||
一部損 | 一部損 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の10%以上30%未満となった場合 |
※財務省ホームページ「地震保険制度の概要」を基に筆者が作成
地震保険に加入するうえで、多くの人が気になるのが「保険料」です。
地震保険は火災保険と合わせて契約する保険ですが、火災保険料とは別に支払う必要があり、都道府県ごとの地震リスクや建物の構造によって保険料が大きく変わります。
さらに耐震性能に応じて割引が使えるなど、保険料を抑える方法もあります。保険料がどのように決まり、どれくらいが目安になるのかを解説します。
地震保険の保険料は、所在地(都道府県)と建物の構造によって算定されます。地震による揺れの大きさや被害予測に基づいた統計モデルにより地震保険の基本料率が計算されており、全国どの保険会社で契約しても同じ基準となります。
建物の構造区分も保険料に影響します。建物構造は大きく以下の2種類があります。
一般的に、ロ構造(一般に木造住宅)はイ構造より保険料が高い傾向があります。
具体的な保険料の例をみていきましょう。保険金額1,000万円、保険期間1年で割引適用がない場合、目安として次のような基本料になります。
■表3:地震保険の基本料率の例
等級区分 | イ構造 | ロ構造 | |
|---|---|---|---|
1等地 | 北海道、青森、岩手、秋田、山形、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、滋賀、京都、兵庫、奈良、鳥取、島根、岡山、広島、山口、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、鹿児島 | 7,300円 | 11,200円 |
2等地 | 宮城、福島、山梨、愛知、三重、大阪、和歌山、香川、愛媛、宮崎、沖縄 | 11,600円 | 19,500円 |
3等地 | 茨城、徳島、高知 | 23,000円 | 41,100円 |
埼玉 | 26,500円 | ||
千葉、東京、神奈川、静岡 | 27,500円 | ||
※令和4年10月1日以降保険始期の地震保険契約の場合
※財務省ホームページ「地震保険の基本料率(令和4年10月1日以降保険始期の地震保険契約)」より、筆者作成
本表は基本料率の例で、実際の保険料は保険金額や契約年数(短期か長期か)に応じて変動します。長期契約では複数年分をまとめて支払う形になり、以下の係数を乗じて保険料を算出します。
■表4:長期契約の保険料
期間 | 係数 |
|---|---|
2年 | 1.90 |
3年 | 2.85 |
4年 | 3.75 |
5年 | 4.70 |
※財務省ホームページ「地震保険の保険料」より、筆者作成
地震保険には、耐震性能や建物の築年数に応じた以下の割引制度があります。
■表5:割引制度の概要
割引制度 | 割引内容 | 保険料の割引率 | |
|---|---|---|---|
免震建築物割引 | 対象物件が「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく「免震建築物」である場合 | 50% | |
耐震等級割引 | 対象物件が「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に規定する日本住宅性能表示基準に定められた耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)または国土交通省の定める「耐震診断による耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)の評価指針」に定められた耐震等級を有している場合 | 耐震等級3 | 50% |
耐震等級2 | 30% | ||
耐震等級1 | 10% | ||
耐震診断割引 | 対象物件が地方公共団体等による耐震診断または耐震改修の結果、建築基準法(1981年6月1日施行)における耐震基準を満たす場合 | 10% | |
建築年割引 | 対象物件が、1981年6月1日以降に新築された建物である場合 | 10% | |
※財務省ホームページ「地震保険の保険料」より、筆者作成
建物および家財に対し、上記表に基づき10%~50%の割引が適用されますが、重複は不可で、利用できる割引制度は上記のうちひとつです。耐震等級3や免震建築物など高い耐震性が認められれば、保険料が約半額程度まで減るケースもあります。
また、割引制度とは異なりますが、地震保険には地震保険料控除があります。国税庁によると、最高で所得税5万円、住民税2.5万円までを控除することができ、税負担を軽くするメリットもあります。なお、控除を受けるには確定申告や年末調整で手続きが必要です(*2)。
(*2)出典:国税庁ホームページ>No.1145 地震保険料控除
地震保険に加入していない場合、どのくらいの支出が発生するのか気になりますよね。震災が発生すると、住宅や家財の修繕・再購入、仮住まいなど、生活再建にかかわるさまざまな負担が発生します。
地震保険に加入していない場合にどのような費用負担が発生する可能性があるのか、また公的支援でどこまでカバーできるのでしょうか。
地震発生後、考えられる代表的な支出は以下が挙げられます。
地震保険に加入していれば、損害区分に応じた保険金が支払われますが、未加入の場合はこれらの費用をすべて自分で支払うことになります。
注意すべきは、持ち家で住宅ローンが残っている場合、建物が大きく損壊してもローン返済は継続する点です。この場合、住宅ローンの支払いと再建費用によって金額負担が二重になることもあり得ます。それぞれにかかる自己負担の例をみていきましょう。
内閣府の発表によると、東日本大震災で全壊した住宅の新築費用(再建費用)は平均約2,500万円とされています(*3)。
この費用の中には、住宅の解体・撤去・再建だけではなく、仮住まいの家賃なども含まれています。義援金を含めた公的支援の約400万円を差し引くと、約2,100万円が自己負担となり、かなり大きな金額であることが分かります。
なお、この金額はあくまで住宅にかかる費用の目安であるため、実際はこの金額にプラスして家財や引っ越しなどの費用が発生します。
(*3)出典:内閣府 防災情報のページ
震災によって損害を受けた家電製品や家具、冷暖房器具、寝具などの買い替え費用はどのくらいかかるのでしょうか。内閣府「平成24年度 被災者生活再建支援法関連調査報告書」によると、東日本大震災で支援制度に申請した世帯のうち、45.5%が家電・家具・寝具などの購入に50万円以上を支出したと報告されています
生活再建費用として住宅再建以外に必要だった支出の実例であるため、家財の買い替え費用の一つの目安といえるでしょう。
地震発生後には、被災者生活再建支援金など、国や地方自治体による支援制度があります。震災時の公的支援として有用ですが、すべての費用をカバーするものではありません。前述の自己負担例を考えると、公的支援にプラスして貯蓄などの経済的な備えが必要といえるでしょう。備えを自助努力で十分に準備できていれば問題ありませんが、万一に備えた安心を確保するという点では、地震保険に加入しておくと安心といえるでしょう。
持ち家(マンション・戸建て)、賃貸と住まいの形態はさまざまですが、地震保険が必要かどうかは、生活状況やリスク許容度によって変わります。地震保険は「必ず入るべき」というものではなく、損害が発生したときの経済的な影響を軽減する選択肢のひとつです。どのような方に必要なのでしょうか。
持ち家の方で、住宅ローン返済が残っている場合は加入を検討されることをおすすめします。持家で住宅ローンの返済が残るケースでは、建物が大きく損壊すると支払い負担が2重になる懸念があります。特に、持ち家でローン返済がある、かつ震災リスクが高い地域にお住まいの方にとっては、建物と家財の損害を補償する地震保険は必要といえるでしょう。
持ち家がマンションの場合、建物の共用部分の地震保険加入は管理組合が行いますが、専有部分や家財については個人で加入します。これは、共用部分と専有部分で責任と補償範囲が分かれるためです。一方、戸建て住宅では建物全体や家財すべてが自身の財産となります。地震への備えとして、建物・家財のいずれについても補償を検討することが望ましいでしょう。
アパートなどの賃貸住宅では、建物の所有者である大家が地震保険に加入しています。賃貸住宅にお住まいで、ご自身で加入を検討する場合は、家財補償のみが対象となります。自宅内に大切な家財がある場合に、検討するといいでしょう。
地震保険は、震災時に備える万一の備えです。万一のことにどこまで保険をかけるか、判断が難しいと思われる方もいるかもしれませんが、日本のような地震多発国では、万一の際に経済的な負担が大きくなりやすいことも事実です。
一方で、地震保険は被災後の生活再建を目的としていることから、補償限度額や支払割合には上限があります。そうした点をよく理解し、お住まいの地域の災害リスクや住宅ローン残高(持家の場合)、貯蓄状況などを鑑みて、保険料の支払いと備えの安心感のバランスを見ながら、検討することをおすすめします。
地震保険は損害区分によって支払われる金額が変わるため、「どこまで補償が必要か」「万一の際に支払える自己資金はどのくらいか」を考えて保険金額を設定することが大切です。
本記事が、地震保険を検討するきっかけになれば幸いです。
*2026年1月時点の情報に則り執筆
承認番号:25-571(2029/2/13)