【FP監修】今後の税制はどう変わる?家計への影響予測と対策
- お 金
日本の税制は毎年見直され、少しずつ変更されているのをご存知でしょうか。
時代に合わせた制度にするために行われますが、変更内容によっては納税額が増えてしまう場合があります。
今回は、2023年に変更があった税や、今後変更される可能性のある税とその対策を紹介していきます。
- ・税制は毎年見直しが行われている
- ・近年、相続税と贈与税の一本化方針が反映されている
- ・今後、退職金の控除見直しが行われる可能性も
税制の見直しは毎年
税制の見直しは、税負担が公平になることと、刻々と変わる経済社会に対応するために毎年行われています。
各省庁からの要望書などをもとに審議が行われ、例年12月に内閣から「税制改正の大綱」が発表されます。この「税制改正の大綱」をもとに国会で審議を行い、税制が改正されます。
毎年すべての税金を見直すわけではなく、現在の社会に合わせて変化が必要だと判断されたものが対象になります。
その結果、数年前まで節税対策として効果的だった方法が通用しなくなるケースがあります。特に長期で節税対策をしている場合は、新しい税制に合わせた対策に変えていく必要があります。
例えば、2023年の改正では贈与税の改正が特徴的でした。どのような変更点があり、その対策はどのようなものか見ていきましょう。
2023年の贈与税の改正ポイント
2023年の改正では、相続税と贈与税の一本化を目指した改正が行われました。これは、相続税対策に贈与を利用するケースがあり、資産を受け取るタイミングの違いで納税額が変わることが問題視されたことが背景にあります。
そのため、次のような改正が行われました。
暦年贈与の改正点
暦年贈与は、贈与税がかからないように贈与を行い、相続税対策をすることの通称です。贈与税は、毎年110万円までの受取額であれば申告をしなくていいので、このルールを利用して申告不要の範囲で贈与を繰り返します。この方法で子どもや孫に資産を移していく方法が暦年贈与と呼ばれています。
ただし、亡くなる直前に贈与して相続税を減らそうとすることを防ぐ目的で、死亡前3年までの贈与は申告不要の分も相続税に加算するというルールがあります。
これが、2024年1月1日以降の贈与では、相続税に加算される期間が7年に延長されることになりました。期間が延期されたことで、相続税に加算される可能性が高くなりました。仮に110万円までの贈与しか行っていなかったとしても、その分も加算されますので、相続税額が増える可能性があります。
相続税が増えることを避けるには、次のような対策が考えられます。
相続時精算課税制度を検討する
相続時精算課税制度は、特定の人からの贈与は一定額まで税金を払わずに、相続時に贈与分も合算して相続税を払う制度です。
相続時精算課税制度に控除はありませんでしたが、2023年の改正で1年間110万円の基礎控除が制定されました。贈与の基礎控除は納税額を計算するときに贈与額から引くことができる金額で、相続時精算課税制度の基礎控除は相続時に加算する必要がありません。
相続時精算課税制度は、相続時に対象の人からの贈与総額を確認するため、いつ・いくら贈与を受けたか把握しておかなければいけませんので、管理の手間はかかります。しかし、受贈者1人当たり1年間110万円までは非課税で資産を渡せます。
一方、暦年贈与は基礎控除も加算されてしまいますので、年間110万円までの贈与であれば相続時精算課税制度を利用した方が納税額が下がる可能性があります。
孫に贈与する
相続時に贈与分が加算されるのは相続人が対象です。亡くなった方(以降、被相続人)の子どもが生きている場合、孫は相続人になりません。そのため、事前に贈与した資産は相続とはみなされず、相続税はかかりません。
また、孫に贈与した分は、被相続人の子どもの相続のときにも相続財産に入りません。
相続を1世代分行わなくて良いので、その分の相続税も減らす効果があります。
教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与 の改正点
これらは子どもや孫に非課税でまとめて資金を渡す方法です。金融機関と契約し、お金の管理は金融機関が行います。制度によって契約完了時の条件が決められており、契約完了時に残高がある場合は贈与税がかかります。
贈与税を計算するときに使用する税率が改正で変更になり、2種類ある税率のうちの税率が高い方に統一されることになりました。税率変更によって、契約完了時の残高によっては、贈与税が増える場合があります。
贈与税がかからないようにするには、必要な分だけ贈与することが大切です。
また、そもそも必要な教育資金は祖父母が負担しても贈与にはなりません 。ですから、これらの制度を使用せずに、授業料の支払いなどを都度祖父母が支払うという方法もあります。ただし、学校によっては授業料等の支払は保護者のみのところもありますので、事前に確認が必要です。
今後改正される可能性がある税金
正式に改正が発表されていませんが、見直しを検討すると発表されたものや、近年の動向から改正の可能性が考えられるものがあります。
今回は、その中から2つ紹介します。
贈与税
2023年の税制改正の対象となりましたが、今後も相続税への一本化への改正が続く可能性が考えられます。
その結果、暦年贈与の基礎控除が見直される、基本的にすべて相続税になるなどの可能性があります。その結果、どのタイミングで資産を受け渡しても税金の負担が変わらなくなるかもしれません。
この場合、納める税金を減らす工夫をするよりも、贈与した財産から収益を作り出せるようにする方がメリットがあるかもしれません。
例えば、家賃収入で利益が得られる不動産や、利益を生む運用資産などを贈与する方法です。これらは、贈与時の価値で贈与税の対象となりますが、贈与後に得られた利益は受け取った人の財産です。仮に相続時に加算対象になったとしても、加算されるのは贈与時の価値分だけです。
また、早い時期に贈与すると、より多くの利益を子孫に送ることができます。
退職金にかかる税金
退職金の控除額は、勤続年数をもとに次のように計算します。なお、勤続年数は同じ企業で働いている年数で、転職するとリセットされます。
- ・勤続年数20年以下の場合
退職金の控除額:40万円×勤続年数
80万円に満たない場合は80万円 - ・勤続年数20年を超える場合
退職金の控除額:800万円+(勤続年数-20)×70万円
この場合、20年を過ぎると控除できる金額が増えるので、同じ企業で働き続けた方が納税額を抑えられると考えられます。そして、内閣府の「新しい資本主義実現会議 」では、この仕組みが転職を避ける要因の1つではないかという指摘がありました。そのため、転職しやすくなるよう制度変更すべき、という意見もありました。
退職金の制度変更について具体的な内容はありませんでしたが、仮に勤続年数1年につき40万円に変更された場合、どのくらい影響があるか確かめてみましょう。ここでは、同じ会社で40年間働いた人の退職金で比較してみます。
勤続40年の場合の退職金の控除額比較
控除額を求めると2023年現在の計算方法では、20年を超えているので、次のようになります。
800万円+(40-20)×70万円=2,200万円
つまり、退職金が2,200万円までは税金がかかりません。
一方、控除額を勤務年数1年につき40万円すると次のように計算されます。
40万円×40=1,600万円
税金がかからなくなるのは1,600万円までに変わります。今回の例では、退職金が1,600万円を超えると影響があることがわかりました。
退職金の税金が増えた場合の対策は?
それでは、税金が増えたときの対策を考えてみましょう。
税金が増えると、実質上リタイア後の生活資金が減ることになりますので、税金が増える分は貯蓄や長期投資などで準備するのも一案です。生活費の一部から準備することになりますが、リタイア後は多くの人は収入が減ります。リタイア後に向けた生活費の見直しも兼ねて行ってみてはいかがでしょう。
なお、退職金の税金は、受け取った退職金から控除を引いた後、その1/2に税率をかけます。受け取る退職金が多ければ多いほど影響を受ける可能性がありますので、高額な退職金を受け取る見込みの方は、今後の動向に注意が必要です。
税制改正が家計に影響がある場合も
この記事では、2023年の税制改正で変更になった制度のうち、家計に影響のある贈与税について変更点と、その対策をご紹介しました。また、今後改正される可能性のある制度として、贈与税と退職金の税金をご紹介しました。
税制は毎年見直しが行われるため、情報を集めるのも大変かもしれません。もし、気になる税制がありましたら、例年12月ごろに発表される「税制改正の大綱」をチェックしたり、専門家に相談したりしてみてはいかがでしょうか。
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