【FP監修】「がんのアピアランスケア」とは?
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一生涯を通して、日本人の2人に1人がかかるといわれている「がん」。
国立がん研究センターの最新のがん統計によると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性が65.5%、女性は51.2%です。
人口の高齢化に伴い、がんの罹患数(新たにがんと診断された数)も増加し続けています。
一方で、がん治療における医療技術の進歩により、がんの生存率は上昇傾向にあります。
通院治療の環境整備が進み、就労や就学をしながら治療を続ける方も増えています。
こうした背景のなか、がんの治療により生じる外見変化に対する支援である「がんのアピアランスケア」というものが注目されています。
出典:国立がん研究センター(がん情報サービス)「最新がん統計」「2019年」
出典:国立がん研究センター(がん情報サービス「年次推移」「2022年」
がんのアピアランスケアが注目される背景
がん治療では、手術で身体の一部を喪失する、薬物療法で脱毛や皮膚症状が表れるなど、外見変化が起こることがあります。
そうした外見変化によって苦痛を感じるがん患者に対して行うケアのことを「がんのアピアランスケア」といいます。
アピアランスは「外観」や「人の容貌」を意味する言葉です。
がん治療によって起こる、髪の毛やまつげ、眉毛などの脱毛、皮膚や爪の変色、手術の傷あとなどの外見変化に対して、患者の悩みに対処し、支援することを「アピアランスケア」と呼びます。
厚生労働省では、がんのアピアランスケアのことを、国立がん研究センターが提唱する「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」(*1)と定義しています。
がん医療の進歩によって、治療を継続しながら社会生活を送るがん患者が増加していることから、アピアランスケアの必要性が高まっており、近年注目されつつあります。
がんの治療と仕事や学業の両立を可能にし、治療後もがん患者のQOLを向上し、同様の生活を維持する上で、外見変化に対するケア・サポートの重要性が、医療現場をはじめ社会的にも高まっているのです。
(*1)引用:厚生労働省ホームページ 「アピアランスケアの現状と課題」
アピアランスケアにはどんなものがある?
がんの治療を行うと必ず外見変化が生じるわけではなく、がんの種類や治療方法によって異なります。
また、がんの治療をしたすべての方にアピアランスケアが必要かというと、そうではありません。
治療を行い外見変化が生じた方でも、その方が気にしなければアピアランスケアは行わず、そのまま過ごしてもらいます。
そのため、アピアランスケアの介入のタイミングや内容は患者によってさまざまです。
アピアランスケアは単純に外見を繕うだけではなく、心理・社会的なケアを通じて、がん患者一人ひとりが安心して社会生活を送りながら治療することを目指しています。
アピアランスケアが必要な患者とは?
がん治療によって生じた外見変化に苦痛を感じる方や、不安を抱えている方が対象となります。
こうした方の中には「自分自身の姿に違和感がある」「人の目を気にしてしまう」「周囲に(がん患者という)心配をかけたくない」といった気持ちから、外出が億劫になってしまったり、社会と関わることに恐怖を覚えたりする方もいるそうです。
アピアランスケアを必要とするがん患者の多くは、仕事や学業、その他さまざまな社会との接点で、上記のような困難や苦痛を感じています。
がんやがん治療による外見変化は「おしゃれをしたい」といった美しさの問題ではなく、「自分らしさ」を保ちながら「社会の中で今まで通り過ごせるか」が根本の問題となっているようです。
こうした理由から、患者一人ひとりに合わせたケアが医療現場で実践されています。
アピアランスケアの内容
医療者が行うアピアランスケアには、目的に合わせた方法があります。
がん患者に対して「外見への介入」「心理的な介入」「社会的な介入」を通して総合的にアピアランスケアを行います。
- ・外見への介入
「自分らしい」と思える、社会生活をしやすい外見を目指し、ウィッグや化粧、被服などの整容的な方法を用いたケアや情報提供を行う。 - ・心理的な介入
外見や自分自身、他者との関係、社会との接点について認知の変容を促し、心理的な負荷を軽減するためのケアを行う。 - ・社会的な介入
外見変化後の対人行動やコミュニケーション方法の助言、場面のシミュレーションを行うなど、周囲との人間関係を保ち、安心して社会の中で生活するための方法を検討する。
イメージしていただきやすいのは「外見への介入」だと思います。
代表的なものとして、髪の毛が抜けてしまうことに対する医療用ウィッグの着用や、むくみ症状を軽減するためのサポーター着用などが挙げられます。
肌のくすみや色素沈着を隠すためにコンシーラーを使う、爪の変色を隠すためにマニュキュアを塗る、といったこともあるようです。
こうした整容的なケアを通じて困難や苦痛が軽減することもあれば、「心理的な介入」で挙げられるような、医療者との相談やコミュニケーションを通じて、考え方や物事の捉え方を見直すことで解決する場合もあるようです。
出典:厚生労働省ホームページ「アピアランスケアの現状と課題」P2より一部抜粋
ケアにかかる金額は?
ケアにかかる金額はアピアランスケアの内容に応じて変わるため、患者ごとに異なります。
外見の介入が必要な場合は医療用ウィッグや化粧品の購入などが発生しますが、ケアを通じて考え方や捉え方に変化が生じ、外見の介入が必要ない場合、お金はかかりません。
例えば、医療用ウィッグを購入する場合、数千円~数十万円程度かかります。
乳がんで乳房摘出手術を行った場合に使う人工乳房(乳房補正具・胸部補正具)を購入する場合、数千円~80万円程度かかります。
どちらも、既製品は比較的安く、自分の身体の形に合わせてセミオーダーやフルオーダーにするほど、価格は高くなる傾向にあります。
しかし、基本的にアピアランスケアには保険が適用されません。
外科手術を伴う乳房再建などの場合は健康保険が適用されますが、前述の医療用ウィッグや人工乳房の購入には保険は適用されず、自費での購入となります。
自治体によっては助成制度がある
自治体によっては、アピアランスケアに医療用ウィッグや人工乳房の購入が必要な場合に、助成制度を設けています。
その他、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている「がん相談支援センター」では、看護師やソーシャルワーカーに対して、無料でアピアランスケアを含めたがんに関する相談をすることができます。
また、加入している保険会社によっては、アピアランスケア紹介デスクといったサービスを展開し、提携会社を利用した場合に割引や優待特典を受けられる場合もあります。
気になる場合は、お住いの自治体や加入している保険会社に確認をしてみましょう。
病気になっても、自分らしく生きる
治療による外見変化に起因するがん患者の苦痛を軽減する「アピアランスケア」について紹介しました。
ただ、残念ながら現状、がんのアピアランスケアを実施できる医療施設が十分かというと、そうではありません。
就労・就学をしながらがん治療を続ける患者を支援するには、外見変化に対して患者が自分で対処できるような情報提供と、困ったときに専門支援につながる仕組みが必要です。
そのために、国が主導してアピアランスケアの正しい知識を伝える研修の開催や、拠点病院を中心とした相談支援・情報提供体制の構築を進めています。
がんなどの病気にならないことが望ましいですが、病気はいつかかるのか、予測することはできません。
仮に病気になってしまったとしても、アピアランスケアのように、自分らしく生きるための支援があることを知っておくと、気持ちが楽になるのではないでしょうか。
2023年5月時点の法令に基づき執筆
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